故障

 異常な暑さで故障してしまったのだろうか。自分の思いを言葉にすることが著しく苦手になってしまった。脳みそからは絶えず言葉が湧き出てくるというのに、それを一連のまとまった流れにするという作業ができない。実際に、ここまでのたった数行を文字にすることさえ途轍もなく困難に感じられた。

 また、最近あまり幸福を感じなくなった。特に不幸な出来事ばかり起こったわけではないし、逆に幸運が続いたわけでもない。ただ、幸福を感じる神経のようなものが麻痺しているのだと思う。ちなみに、ここで云う「幸福を感じる神経」はあくまで比喩的なものであって、実際にそんなものが存在するかなんて知ったことではない。ここで言及しておきたいのだが、人生は楽しい。幸運なことに、休暇中にもかかわらず私を食事や遊びに誘ってくれる人々がたくさんいる。尤も、「たくさん」というのは主観的な感覚であって、決して他人と比較しているわけではない。私は休日に気を遣ってまで誰かに会おうだなんて思わないし、放っておいたら何日間も自分の世界に籠っているような私を、意図的か否かは別として、外の世界に連れ出してくれる周囲の人々には本当に感謝している。しかし、一人になった途端に得たはずの幸福がわからなくなる。この感覚を具体的に表せないのが本当にもどかしいのだが、つい先ほどまでの幸福な時間が、まるで埃を被った古いアルバムの中にある色褪せた写真の中にある思い出かのように感じられて仕方ないのだ。

 奇妙な変化は一人の時間にも現れた。楽器を弾いたり、本を読んだりしていると、何故かある瞬間に全てを投げ出したという激しい衝動に駆られるせいで、長い間集中できなくなってしまった。不幸中の幸いか、音楽や絵画に触れているときはあまりこういった衝動が現れないので、休日は音楽を聴いたり、絵を見たり、体を動かしたりして過ごすようにしている。

 世間では「個性」という言葉が美徳であるかのように持ち上げられているが、私は他人と異なることの何がそんなにも嬉しいのかが理解できない。私はたった一人で異次元空間に生きたいだなんて望んだことはないし、これから望むこともきっとない。

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