追憶

 中学時代の旧友に会った。私の記憶が正しければ、彼とはよく諍いをしたものだが、互いに大人になったのだろう。フランチャイズチェーンの喫茶店で軽食を取りながら、他愛ないことをあれこれ話した。

 数時間して彼と別れた。私はその足で、近くのショッピングセンターへと向かった。夕方からアルバイトを控えているとはいえ、まだ時間がたっぷりあったのだ。暫く書店で立ち読みでもしよう。そう思い立ちやって来たショッピングセンターは、平日の昼下がりだからか閑散としていた。僅かな客はみな忙しそうに歩いていた。もう夕飯の買い出しにやって来たのだろうか。一人でいると、時間が悠々と流れていく。ショッピングカートを押す初老の女性が、私の脇腹にハンドバッグをぶつけた。彼女は謝罪はおろか、見返ることもなく、足早とどこかへ消えてしまった。本当に私の周りだけ、時間が止まっていた。その後、書店で小説や自己啓発書、随筆などを手に取ってみたものの、あまり気分が乗らず、ショッピングセンターを後にした。

 今日は風が強い。ただ乱暴なだけではなく、どこかに優しさを含んだ風が吹いていた。自転車に乗り、坂を下っているとそれがよくわかる。全身に風を受け止めながら、マンションが立ち並ぶ遊歩道を進んだ。私の住む地域は緑が多いため、遊歩道はほとんど陰で覆われており、嫌な暑さなども全く気にならない。漕ぎなれた道を滑るように進み、気がつけば通っていた中学校の裏に辿り着いた。懐かしい校舎や印象的な時計台。体育の授業だろうか、校庭には男子生徒がちらほら見える。私が云えたことではないが、中学生とは、それはまあ面倒くさい時期である。小さなことで悩み、もがき、苦しむ。教師は決して中立ではなく、強い者の味方だった。私は旧友との会話を思い出し、あの頃に思いを馳せた。そして、野暮ったい青のハーフパンツを履く彼らもまた、何かの柵に囚われているのだろうかと、勝手に想像した。

 校舎の表に回り、正門の前の長い長い坂を、ブレーキを握りながら下っていく。無垢な笑顔を見せ燥ぐ幼稚園児を横目に、マンション群をぐんぐんと追い越していった。本当ならば、そのまま帰路に着く予定だったが、天井に広がる澄んだ青が私を引き留めた。何かに誘われるかのように、私は幼い頃よく遊んだ公園へと向かった。公園の中には、一帯を見渡せるほどの小さな丘がある。「登山」は完全に言い過ぎであるが、私はそんな気分だった。中腹までは自転車を漕ぎ、そこからは自らの足で歩いた。二十数段ほどの階段を、一段飛ばしで駆け上がる。いくら運動不足とはいえ、このぐらいの運動で息切れするほどやわではない。最後の段に足を掛けると、風が木々の間をすり抜け、私の頭を撫でるのがわかった。たくさんの声が聞こえる。葉を揺らし、土を躍らせ、見えない自分を証明するかのように、風は宙を舞ってみせた。その音と温度があまりに心地良くて、私はベンチに腰掛けた。それから何をするわけでもなくぼうっと過ごした。何も考えたくはなかった。私は世界を独り占めにしたのだ。

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