灰色

 朝の列車は途轍もなく恐ろしい。車内には一寸の余白もなく、人々はみな涼しい顔をして一言も発さない。若い女性はスマートフォンを頻りに見つめ、俯きながら壁に凭れかかれている。一方、ビジネスマン風の男性は、車窓を横切っていくメトロポリスの欠片を、無表情でぼうっと眺めている。この車内にいる人間の数だけ、数十年間の歴史がある。「あの人はどこで生まれ育ち、どんな人生を歩んできたのだろうか」。答が明かされることのない問を、私はふと頭の中に巡らせることがある。しかし、その問の答が明かされたとしても、そんなことなどお構いなしに、人々はみな、灰色に染まっている。器量や性格の善し悪しも、経済力の有無も関係ない。老若男女が灰色をしていた。お揃いの面を身に着けたかのように、乗客が揃いも揃って無表情な様は、狂気に近いものさえ感じられる。そんな異様な空間を運んでいるのが、朝の列車なのだ。

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